大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)391号 判決

一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。

そこで、以下に原告主張の取消事由について判断する。

二 原告は、審決に手続上の違反がある旨主張するが、成立に争いのない甲第一号証(昭和五五年七月一四日付拒絶理由通知書)、第六号証(審決謄本)によれば、被告が、審判手続において第一次訂正明細書につき通知した拒絶理由は、審決の理由の要点2(一)に摘示した特許請求の範囲中の不明な個所及び同(二)に摘示した発明の詳細な説明中の技術常識上合理性の疑わしい記載からみて、「当業者がその発明内容を合理的に理解し、かつ、実施できる程度に記載されたものとは認められず、結局本願の明細書および図面によつては発明の存在が不明であり、かつ、発明の所期の目的を達成することができないものと認められるので、本願発明は旧特許法一条の工業的発明とは認められず、特許することができない。」というにあるところ、原告はこれに対し第二次訂正明細書を提出したこと、被告は両明細書を検討した結果、表現上の差異があるものの両者の内容は実質的に同じであると認められたので(この点は原告も認めるところである。)、第二次訂正明細書についても前記拒絶理由により指摘した点は解消されておらず、本願発明は、旧特許法一条の「工業的発明」と認めることはできない、と判断したものであることが認められる。

そして、右判断は後記三に述べるとおり正当であると認められ、この事実によれば、被告は、前記拒絶理由とは別個の理由で本願を拒絶したものではないということができるから原告の主張を採用することができないことは明らかである。

三1 成立に争いのない甲第四号証(第二次訂正明細書)、第五号証の二(昭和五五年九月五日付訂正書)、第九号証の一ないし三(昭和四二年四月五日付明細書添付図面)第二五号証(第一次訂正明細書)、第二六号証の二(昭和五二年一一月一日付訂正書)を総合すると、本願明細書には、一般に使用されていないところの原告独自の理解に基づく難解な用語もしくは表現形式が用いられているうえ、文章自体に難解で不明瞭な点が多いので、本願明細書の記載内容を正確に理解することは極めて困難であるといわざるを得ないが、要するに、本願発明は、請求の原因四1において主張する基本的原理が技術的に成り立ち得るとの前提で、並列らせん体のらせん翼の回転による遠心力を利用して、外筒内の入口より出口に移行する流体を相手らせん体のらせん翼の迎え角斜面の正面部に作用させることによつて、ねじポンプにおいてできるだけ大きな効力を回収することを目的として、特許請求の範囲に記載(請求の原因二)したとおりの構成を採用したものであることが認められる。

2 しかしながら、原告が主張する基本的原理なるものは、技術的に成り立ち得るものではなく、被告が主張するように、本願発明の特許請求の範囲に記載された構成によつては、本願発明が目的とする流体の効率的な利用はとうてい期待できないものといわざるを得ない。すなわち、前掲各証拠によると、本願発明の装置において、入口から送られた流体には、らせん翼の上下面よりその回転による遠心力が作用し、らせん翼が互いに入り込む部分(同方向性間隙5、5´)に放出されるとしても、放出される流体は互いに逆方向となつて衝突し、相互に激しく混ざり合い、流体の有する速度エネルギは圧力エネルギに変換され、流体の粘性によつて互いに逆向きの摩擦力が作用し、激しい渦となつてエネルギの損失をきたすとともに、装置の入口と出口間の圧力差のため、らせん翼間に設けた同方向性間隙5、5´を通つて流体が入口側に逸出し流体の漏洩が生ずることが認められる。

このように、本願発明はエネルギ及び流量において損失が生じるという基本的な欠陥が生じるので、その損失は単なる許容範囲というものではなく、本願発明の装置によつては、流体の効率的な利用ができず、ねじ圧縮機、ねじポンプとしての機能を有しないものというほかない。

この点に関し、原告が本願発明の基本的原理、拒絶理由に対する反論及び被告の主張に対する反論として主張するところは、いずれも明細書及び図面に基づくものということはできず、その点は措くとしても、右に述べた流体の運動に照らし理由のないことは明らかであつて、技術的に理解することができない。

そうであれば、結局、本願発明は、ねじ圧縮機、ねじポンプとして基本的な欠陥を有するもので、原告の主張にかかわらず、明細書及び図面によるも、また、技術的観点からも、旧特許法一条にいう「工業的発明」にあたるものと認めることはできないのであるから、この点に関する審決の同旨の判断には誤りはない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!